桜夜が落ち込んでいる間にも情勢はどんどんと変わっていった。

王政復古の大号令。

十二日には徳川慶喜は大阪に下った。

王政復古?徳川幕府がもう終わるのは始めから分かってたけど…立ち直ったと思ったらこれだもんな。

そんな折、桜夜は近藤に呼ばれた。

近藤さんに呼ばれるなんて…。

仕事を終えた桜夜は近藤の部屋を訪ねる。

「近藤さん、稲葉です」

「ああ、入りたまえ」

「失礼します」

緊張しながらも部屋に入る。

「すまなかったね、呼び立てて」

そこには変わらない笑顔の近藤がいた。

ああ、近藤さんの笑顔にはいつも癒されるな。

こんな時に局長をそんな風に思っちゃ不謹慎かな?

近藤に促され、置かれた座布団に座る。

「総司はどうだい?」

「変わらずです。きっとこれからもっと悪くなるとは思います」

「そうか…」

きっと総司の事を聞きたいんじゃないよね。

桜夜は近藤が時々沖田の様子を見に行っていたのを知っていた。

近藤だけではなく、土方も。

「さて、本題に入ろうか。我々はじきに大阪に発たねばならない。桜夜殿はどうしたい?」

どうしたいって?新撰組を離れろって言いたいの?

「誤解しないでほしい。出て行けと言ってる訳じゃないんだ。ただ、この先はどうなるか分からない。しかし、桜夜殿ならこの先を考え、安全な場所に身を置く事ができるだろう?」

私の安全?そうか…ここまできたらもう戦続きだもんね…。心配してくれてるんだ。

「無駄だろ」

声と共に突然襖が開いた。

「トシ!声くらいかけんか」

「ああ、悪い」

土方はそう言ってドカッと腰を下ろした。

「こいつが総司から離れると思うか?引き離してみろ、地の果てまで追い掛けて来るだろうよ」

おいおい…人をストーカーみたいに言わないでよ。

まぁ、あながち間違いでもないけど。

「それにこいつの頭、足りねぇからな。これから起こる事、あまり覚えてないらしい」

ストーカーの次はバカ扱い?この口の悪さには時々カチンとくるんですけど?

桜夜は思わず土方を睨む。

「ちっとも怖くねぇぞ。本当の事だろ」

ククッと笑う土方。

分かってますけどね。私が新撰組に居られる様に言ってくれてるって事は…。