「ウズメ」




 その透き通った声は、戸惑うように自分を呼ぶ。

 アメノウズメは立ち去ろうとしていたその足を止め振り返った。

 呼んだ主たるアマテラスはその声をそのまま表情にしたような不安げな顔をしている。世を照らす大いなる太陽神は、その慈愛の美をたたえた顔をこちらを伺うように少し傾げていた。
 安心させたい意図と、呼びかけに対する返事を兼ねて微笑みながら首を傾げると、彼女は僅か逡巡を見せた後、少し声の調子を落として怖ず怖ずと話し出した。






「――――私は、このままで良いのでしょうか―――弟を……」




 すぐわかった。わかったから、少し動揺してしまった。

 常から思っていたのだが、彼女はこんなにも皆に好かれ仰がれ時には毅然と総てを照らし、その声高く決め事を決定することが出来るのに、どうしたことか極端に気弱な面がある。
 姉たる彼女が弟を、スサノヲを信じなくて、許さなくてどうするのかと思う。
 その二人だけという狭い括りでなければ彼女はもっと違ったのかどうかは、定かではないが、いずれどうでも良い事だ。とも思う。


 アマテラス…――と宥めるように言ったつもりの言葉に、彼女は窘められたと感じたのか、不安なのですッ―とほんの僅か声の調子を高くした。