神々の地、高天原(タカアマノハラ)。

 伊耶那岐(イザナギ)が共に手を取り合って不完全であったこの世を創造した伊耶那美(イザナミ)と死に別れ、黄泉国から逃れて生死の境を区切った後、彼はその身を清めた際に産まれた三貴子が一人、日本の総氏神たる太陽神、天照(アマテラス)が主神となり治めるその地に、須佐之男(スサノヲ)はいた。

 父たるイザナギに海原を治めるようとの命を跳ね退け、勘当をくらって、半ば強引に姉のアマテラスに掛け合いここに居座る事を許された張本人は、その力のある目を不審そうに歪め宙空を眺めながら歩いていた。
 その逞しい肩に担がれているのは先程馬屋から持ち出してきた馬の死骸。



…―ウズメの奴、馬の死骸など使って何をする気だ?―…



 神々の中でも問題児として知られる彼だが、姉の事を常日頃から支える女神、天宇受売(アメノウズメ)は彼にとってもどうしてなかなかくえぬ相手なのだ。


 太陽神として神々しくも暖かな慈愛としての美しさを持つアマテラスとは違う、"美"を周りに示すべく生まれ持った艶やかな容姿に、芸能の女神として人を魅了する話し方やそぶり。
 機転が利き直情的なスサノヲの暴走の兆候を宥める場面もたびたびあった。