「おはよー!市花」


朝、いつも通り登校して


生徒玄関から教室へ
向かう廊下


同級生が明るい顔で
私に声をかけ通り過ぎて行く



私も いつも通りの笑顔を返す


「おはよー」





授業はチャイムの合図で
いつも通り始まり終わる



休み時間は教室移動や
他愛ないおしゃべりに費やされ



何が起きても
日常は何一つ変わらずに



だけど私の笑顔の下には
屍のような私が
いつだって重く横たわる




気を一瞬だって抜けない



少しでも気を緩めたら
この日常から一気に
ドロドロとした
真っ黒な底なし沼に
飲み込まれる






「市花、お昼食べないの?」


お昼休み机を合わせて
絆がお弁当を出しながら訊いた



私はペットボトルの
ミネラルウォーターを
机に乗せ



「うん。食欲なくて」


「ねぇ、市花。
すごい痩せたよね
体調、悪いんじゃない?」


心配そうな絆の視線


「ううん。全然 大丈夫
痩せたかなぁ?
自分じゃわからないな…」



気持ち悪いんだ。

食べ物の味とか匂い

飲み物も水以外はツラい



「………ねぇ、市花
最近…変だよ?」


…………変?

こんなに普通にしてるのに

必死で普通を守ってるのに



「何か悩み事あるんじゃない?
私じゃ大した力にならないかも
知れないけど
話せば楽になる事も……」



ガタンッ
絆の話の途中で立ち上がり


「ごめん。トイレ」


逃げるように教室を出た。