「ちょっと。空気重いんだけど。辛気くさい顔しないでくんないかな」


隣から秋穂の若干苛立ちを含んだ声が聞こえる。

がしかし。

そんな秋穂の声は今の和紗には届かない。
自分の世界に篭もっているのだから。



次々と教室が生徒で埋め尽くされていく中、和紗は机の上で頭を抱えていた。

理由はもちろん昨日の帰り道の事。


「はぁー」


思い出すと溜め息が出る。
なんで何も言わずに帰ってきてしまったのだろうと、今更ながらに自分の行いを反省した。


助けて貰ったことは変わりのない事実で、助けてくれた相手は確かに安斎悠壬で。


安斎悠壬は気に入らない。

だが安斎の行動まで否定できる程、和紗も子供ではない。


だから今日は謝ろうと思って覚悟を決めてきたのだ。

先刻から吐いている溜め息はそれ故である。