ドガー! ガラガラッ! 

 住宅街に大きな騒音が響く。
 時はXX2X年真夏、時刻は丁度よく2時になり、家の取り壊し工事の作業員達は、嫌にベトつく汗をかいていた。午前中、あまり作業が進まなかったせいで、家の解体が午後に持ち込んでしまい、口には出さないが多くの者達は嫌になっていた。

「鉄球での解体、終わったぞ~。後の始末頼む」

 その声が聞こえると、工事の作業員は全員、この暑い中での作業の終焉を感じて、弱弱しい笑みを隣同士で上司に見えないように溢す。
 なぜなら、あと残っている作業は家の残骸の処理ぐらいなものなのだから・・・。

 暑さが除除に引いた頃になると、一通りの作業が終わり、全員が会社に戻る準備をし出す。
 その時である。一人の男の声が全員の動きを止めた。

「お~い。何か箱みたいのが在るぞ~」

 たちまち、人々が箱に殺到する。別にこの箱自体に興味が有るわけではない。問題は、箱の中身なのだ。
 最近、テレビでは古い家の蔵や、天井から歴史的価値の有る物が発見されるという番組が大人気だ。

 この手の番組は、『自分もいつか金持ちになりたい』とか、『働かなくても生活が出来たらいいのに』なんて言う、多くの一般庶民が叶うはずもない夢を一時だけでも見させてくれる。

 勿論、この作業員達も気付いてはいないが、こんな理由でこの手の番組が大好物であった。であるからして、作業員達は、夢を乗せるにはあまりにも小さな箱に、何世紀も前の陶器や宝石を期待し、箱をゆっくりと開けた。

 しかし、箱の中身は、何世紀も前の陶器でもなく、宝石でもなく、ただの古びたノート。
 一気に溜息がその場に漏れる。残念そうに、殺到した者達が去っていき、残ったのは見つけた本人だけ。古びたノートを持って立っているその姿は、他の者からは実に滑稽に見える。しかし、本人は別に気にする様子もなく、近くの者にのん気に聞く。

「……なあ。これ、俺が持って帰ってもいいか?」

 話し掛けられた者は、誰もが特に興味も無さそうに器具を担ぎながら答えた。

「別にいいんじゃないか?ここの持ち主、もう死んでるし、そんなもんを欲しがる物好きなんて、いないだろうしな」
「そうか……んじゃあ、貰ってくわな。」