「シア、そろそろ行くよ。」


努めて冷静にその席に近付いた。

カイトとその青年・アイドル
である柘植直樹は
座ったまま俺を見上げている。


「ジュードさん、僕、この人と
お友達になりたいんですけど。」

「何で俺に聞くの?」


直樹はつぶらな瞳でそう云い
子供がダダをこねる様、
テーブルの下で
小さな地団駄を踏む。

彼は年下の友達だが滅多に
こんな事を
言い出す男ではなかった。


「いや、それがいいかなって。」

「賢明ではあるね」


この事態に
笑っている場合ではないのに
どこか俺は開き直っている。

ついポケットに
片手を突っ込みながら
カサついてきた唇に指をやり、
笑った。

バッグに手を入れたシアは
空かさず
リップ・クリームを差し出す。
これしきの事で
またそんな困った顔をして。


俺はチラリ壁の時計を見遣る。


シアに友達が出来るなんて
喜ばしい事なのに
半分くらい俺は上の空だ。



「"オトモダチ"なら!いいよ?」


「アレ、今ナンカ、凄ーい、
リキみが入った様な・・。」


「それ以上のコトは
僕が許さないよ?」

「二人とも保護者??」

「じゃ、
俺達はもう行かなきゃ。」



彼女に目配せをして頷く。
シアは席を立ち、
二人に軽く頭を下げた。


さて、
なんて話せばいいんだ?

入り口で待っていた
マネージャーと合流、
彼も
俺に何か言いたげである。

爺さんと
会っていたのを知らないんだ。
まだ俺が
何も知らないと思ってやがる。

だけど、
”変わりない”って

あの会長の言葉を
信じていいものか?


まあ、こんな経験は
二度するものじゃない。
前向きに居直ってみるか。

会長の事だ、シアを
悪いようにはしないだろうし。

俺だって共同経営者でも
何でもないんだから、
どうとでもなるだろう。


「一度
事務所に戻っていいかな。」


駐車場の車に乗り込んだ途端、
ハンドルを握る彼がそう云う。


「手短にね。」



どうせがっくりと落ちた
社長の肩でも叩きに行くんだろ?