換気扇が追いつかない位だった。

遠慮のない喫煙に燻る
無機質で殺風景な部屋。



「「 ・・・・。」」


そこに会話はなく
1:1でソファで酒を飲む、
チンピラ2人? みたいな光景。
職種はモチロン違うけど。

息が詰る様な
刺々しい雰囲気を持つ
俺の目の前に座った
鋭い眼差しの男。


油断をしたら噛み付かれそうな
妄想を抱かすのは
彼がハ虫類系の、
渋みのある男だから?

それとも、くすんだエンジの
細身の皮ジャケットが
ワニっぽいせいか。



蛇が鰐を・・・
・・・・・・・・。



想像力の乏しい俺に
何を想像させるんだ。


ハード・ボイルドの
ワン・シーンみたいな
コンクリート打ちっぱなしの
この部屋で。


目の前で寡黙に
酒に付き合ってるこの俺が
よもや
頭の中で妄想観察日記を
完成させているとは思うまい。


しかし俺、
余程タイクツなんだな。

喋らない男とは聞いていたが、
まさかここまでとは
思わないじゃない?

呑む、吸うの繰り返しで常に
ノロシは上げっぱなしだし

アル中を
匂わせる飲みっぷりだし。

それでも皮のチョーカーが
覗く痩せた胸元には
赤みもささない。

俺は思わず
自分の服に鼻を鳴らす。


ガラッ。


気付いたか
バーカウンターに居た少女が
窓を開けてくれていた。

遠目に居る彼女と俺は
まだ目も合わせていない。


ん?・・少女だって?
何時からそこに居たんだろう?

その窓辺に立つ少女を
もう一度、顔を上げて見直した。


「・・・。」


ビルの谷間の、不自然な流れの風に踊る、
赤黒く輝くストレートのボブ。

顎のラインと髪の長さがバランスが良い。

髪を手で押さえ、そこから離れようと
目を伏せて体の向きを変えた・・。

そんな大人びた仕草に
俺は一度彼女から目を反らす。

この男は独身の筈だ。
それに娘にしちゃ大きい。

だが、
ただのお手伝いにしちゃ・・
幼すぎるし、身ギレイ過ぎる。