そこにはやたらとばかデカい模型があった。


「何だこれ」
「あ、これはですねー」
「……誰お前」
「あ、わたし柳原といいます」


いや、そうじゃなくて。
ぺこりとお辞儀をした柳原とかいう妙に胡散臭い奴に、何とも言えない視線を投げる。
金髪碧眼美形なのに柳原なのか、ばかにしてんのか。
お前、俺をばかにしてんのか。


「ばかにしてないですよー」
「うっせ、何も言ってねえよ」
「目は口ほどにものを言うんですよー」


へらへらと笑いながら、柳原が模型を指す。


「これはですねー、」
「聞いてねえよ」
「うっそだー知りたいくせに」
「……」
「世界模型です」
「は?」
「世界模型です」


二度言われた。
いや、そうじゃなくて。
聞こえなかったとかじゃなくて。
世界模型?これが、このばかデカいのが世界模型?


「……違うだろ」


目の前にあるのは、茂る密林、それをなぎ倒し暴れるティラノサウルスに対するはステゴサウルスと言ったところか。
雄大な川が四方に流れ、至るところから上がる煙は、そこに何者かが存在していることを示している。
随分と作り込まれているらしく、それらはまるで生きているかのように動き回っていた。


「……どう考えたって、世界模型じゃねえよ」
「あなたの世界ではないですか?」
「違うだろ、お前何言ってんの」
「そうですか」


そして気づく。
ここはどこだったか。
どこまでも白い世界で、目の前には柳原いわくの世界模型。
そこにいる俺と柳原。
ここはどこだ、どこなんだ。


「世界は一つじゃないんですよ、高橋さん」
「……何で、名前──」
「いいじゃないですか、どうでも」


へらっと笑った柳原はそれこそ不気味に見えて、いってらっしゃいという声と共に、俺は模型に突き落とされた。



5,世界模型【エンド】