毎日、急患で運ばれてくる患者は必ず1人はいる診療所であったが、今ナオたちの目の前にいる青年は体のあちこちに火傷を負い、痛みで苦しんでいた。

しかもただの火傷ではなく、腕から硫酸のようなものをかぶったかのような不自然な傷であった。
しかし、ナオにとっては刃物での切り傷も火傷もさほど手間のかからない治療なのであったが・・・。


「うっ・・・なんだ、魔法治療すると生臭い臭いがする!」

「これは!・・・先生、ちょっと離れて!」


千代はナオを自分の後ろへと突き飛ばすと同時に低い声で呪文をつぶやいた。

さっき発生した生臭い臭いが消えている。


「化け物の毒よ。中和する魔法をかけたから、もう治療してもいいわよ。」


「千代ちゃん、毒消しもできるようになったのかい?」


「うん。毒っていっても、最近うろついている化け物の毒だけの対処法なんだけどね。
師匠がこれはできた方がいいからって教えてくれたの。
きっと、この人、あの化け物たちと戦ったんだと思う。
火傷みたいなこの傷は化け物の吐く液にかかってしまったんじゃないかしら。」


「そっか、化け物は暴れまわるだけじゃなかったんだね。
このへんを荒らしまわったやつらは、毒液は使わなかった。
きっと千代ちゃんたちが魔法で素早くやっつけたから移動の被害だけだったというわけか。」


「うっ・・・はっ」


青年は毒の中和と傷の治療のおかげで意識を取り戻した。


「大丈夫ですか?お話できますか?どこか痛いとこはありませんか?」


千代が青年に声をかけると、青年は

「あなたがこの世界の神様なのですか?」


「は!?ここは診療所ですよ。あなたは生きています。傷もほとんど治ってきていますよ。」


千代の説明に我にかえった青年は、化け物と戦ったことを思い出し、自分の腕をながめた。
どす黒くなっていた腕がもとの肌色にもどっている。


「俺は助かったのか・・・。すみません、ありがとうございます。
てっきり、もう自分が死んでしまって天の世界に来たのかと・・・」


治療が済んでみれば、長身でがっちりした体格の青年は低音声のクールガイだった。