「ただ時間を浪費しているだけだという事を理解した方が良い」

「そうかな?」

 父は生涯を掛けて、君を導く者にする決意を固めているよ。父にとっては、幸福な時間かもしれない。

「ならば続ければ良い」

根比(こんくら)べだね」

 笑って部屋をあとにした。

 自室に向かうなか、トラッドは小さく唸る。

「苦痛を与える試みは間違ってないとは思うけど、助けてくれと懇願されたらどうしよう」

 本心ではなく意図的にだとしても、情けない姿を見せることでこちらの意志を弱める効果はある。

「彼が、そこまで演技派だとは思えないけど、やりかねない」

 ベリルには、嫌なことでも楽しむ傾向がある。

 さすがに苦痛に対しては楽しむ余裕なんて無くなるだろうけど、そのほかに関しては解らない。彼の行動は予測不可能だ。

 もっと、彼を知るべきだろう。

「よし」

 トラッドは足早に自室に戻ると、あるものを手にして再びベリルがいる部屋に向かった。