「施設から逃げて、どうしたの?」

 すぐにそこから離れはしなかったんでしょ?

 唐突に問われ、いぶかしげにトラッドを見つめる。

「そうだよね。そこで生まれて、育った場所だもの。そう簡単に割り切れる訳ないよね」

 施設の人がみんな死んだなんて、信じられなかったよね。

「来るはずのない迎えを、待っていたの?」

 それにベリルは表情を苦くした。

 ──鳴り響く銃声と何かが焼けた臭い、感じる気配が一つずつ失われていく。それらが全て夢ならと何度、考えただろう。

 どうにか外に出る事ができたベリルは、施設を(おお)う高い壁を見上げて茂みに身を隠し、ブルーたちを気に掛けながら眠れない一夜を過ごした。

 夜が明けて施設内を歩き回るも生存者は一人もなく──。奪われた生命に痛む胸を押さえ、幾度か振り返りながらもその場を去った。