増していく水量にベリルの体は浮き始め、やがて天井に近づくと体を支えるために手をつく。さらに水は注がれ続け、満杯になった水槽でベリルは息を止めて水中に漂った。

 それでもハロルドに向ける視線は鋭く、ゆらゆらと揺れる姿は神秘的でさえある。
「そろそろ息が切れる頃だろう」

 数分後、ハロルドが言うように肺に貯めていた酸素が底を突き、ベリルは苦しみで口を開ける。それに気を揉んだ若者たちを、トラッドは心配ないよと笑ってなだめた。

「初めは意識を失うが──」

 ハロルドは人形のように動かなくなったベリルを見つめる。

「やがて、意識を取り戻す」

 その通り、ベリルはゆっくりと目を開いた。

「そう、その肉体は酸素を必要としない。おそらく宇宙空間だけでなく、溶けた金属の中に放り込まれてさえ適応するだろう」

 究極の適応能力といっていい。