心の底に仕舞われていた記憶が一気に溢れ出し、 私にこれほどまでの感情があったのかと感心すら覚えた。
しかし、
「回顧はもう充分だ」
今は思い出にふけっているときではない。
軽く見回し、背を預けている透明の壁を指の節で軽く叩く。ガラスではない、強化ポリカーボネイトだろうか。厚みはおそらく、二十センチはある。
見上げると、上部にもしっかり透明の板が張り付けられている。その天井に、太いパイプがつながれていることにベリルは眉を寄せた。
扉は縁に白いパッキンが窺える。密閉できるようになっているのか。相当、頑丈に造られている。こいつは腕一本を犠牲にしても破壊出来そうにない。
逃走防止にと考えられたものだろう。しかしこれでは、さながら公開ガス室だ。わざわざこの形状にしたということは、何か目的があるのかもしれない。
設置されている複数の機材はこちらを向いていないため、どういうものかは解らないが気に掛かる。
気に掛かるといえば、天井にはパイプの他に見慣れない機械が取り付けられている。
ざっと見てこの部屋だけでも、かなりの資金を費やしている。随分と大がかりな施設を造ったものだ。
ベリルはこれまでを思い起こし、ハロルドには焦りがあるように感じられた。大体において、焦る理由は「老い」によるものがほとんどだ。
なんにせよ──
「寝るか」
考えがまとまったのか、横たわり瞼を閉じた。