―――文九三年、長月二十六日、京





草木も眠る丑三つ時、宴も終わり明日に備え眠りに就く刻…




しかし寝付けない



微酔い気分で床に付けば直ぐに寝付けると思ったが…




…何だ?
胸騒ぎがしやがる…




はぁーっと一つ溜め息を漏らすと、眠るのを諦め身体を起こした




障子を開け放し月の明かりを頼りに灯火具に火を付けると、漆黒の闇に橙色の灯りが広がる



次いでに、と煙管にも火を付け、勢い良く吸い込んだ



今夜は満月か…


たまにはのんびり月を足しなむのも悪かねぇな…




ぶわっと煙を口から吐き出すと、視界に靄がかった月が現れた


灰色のお月さんか、と不意に笑みが溢れる


今日は機嫌がいいんだ


らしくもねぇ…




煙草盆の灰吹きを叩き、灰を落としたその時だった





床を背にして胡座をかいていた姿勢から一気に膝を重心に回転し、勢い良く飛び退け、今度は月を背にした




それと同時に足元に置いてあった太刀を手に取り、抜刀をも瞬時にやってのける


その太刀筋は狭い部屋の中、風をも切った



"気配"がしたのだ


自分が今まで横になっていた床から、何者かの"気配"が


一瞬、忍か?と頭を過ったが気配を放つ張本人を目の当たりにすると恫喝の言葉は喉の奥底へと消えていった