気付けば6月になっていた。


校庭の緑もいつの間にか見慣れてしまい、風はあたたかいものから徐々に湿度を含むようにもなった。


相変わらず勇介の観察は続けている。


と、いうか、あたしにとってはもう携帯をいじることと同じくらい普通なことで、日課というほどすごいものでもない。



「奈々、ホテル行こうぜ。」


今日も窓の外を眺めていると、突然に降ってきた声と、そしてあたしの肩にまわされた腕。


視線を上げるとニヤついたヒロトがいて、あたしはその腕を振り払う。



「行きたいならひとりでどうぞ。」


「お前、相変わらず今日もお高くとまってんなぁ。」


「アンタといると、常に貞操の危機を感じるからね。」


あそ、と彼は口を尖らせた。


コイツのこういうのは、もう鬱陶しい動物が傍に寄ってくるのと似たようなものだと感じ始めている。


でも、いつも何だかんだで、軽くあしらえばそれ以上は何もしてこないから。



「ヒロトさぁ、また謹慎になってたんだって?」


「そうだよ、煙草見つかってさぁ。
一週間も謹慎活動させられて、マジ最悪だったよ。」


「自業自得じゃん、バーカ。」


言ってやると、ヒロトは不貞腐れたガキみたいな顔をする。


子供っぽいというよりは、公園にいるムカつくクソガキって感じ。


勇介とこの人は、性格なんて正反対なのだろうが、ふとした時の仕草なんかが、驚くほど似ていると感じることがある。


まぁ、軽薄そのものなのは同じだけれど。