署長室で呆然と宙を見つめていたのは小金井だった。


部屋が明るさをとり戻すと、最初に自分の手を確認し、おのれが生きていることに胸をなでおろす。

ほっと息を吐き、大きなレザーチェアに背中を沈めたが、それもつかの間だ。


いま起きた現象の裏をとれば、自分が呪われていることになる。


戦慄が小金井を貫いた。


(いま、水沢神社に行ってるのは……まさか)


誰かに呪われた可能性を探した。

思わず部下の顔を思い浮かべたが、その顔は電話のベルでかき消された。


受話器をとった小金井の顔が曇る。その報告は深刻なものだった。

「すぐに探せ。簡単に消えたなどと言うな」


警察署内は騒然となっていた。


いましがた起こった現象、それを誰しもが体験したという事実。

自分だけが呪いを受けたわけではない、ということが、不思議にも胸のうちを軽くしている。


たとえ、保護していた石田沙理奈が、忽然と消えたという報告を受けても、だ。


(一体……なにが何だかわからん)


自分たちがいま直面している事象に、対策の立てようはあるのか。そもそも、これを科学的に証明できるのか。


(なんでウチの管轄でこんなことが)