なにも ないんだ…


存在価値も

自尊心も


それはある意味

発見だった

記憶を無くし

自分が誰で何処から来たのかも

まったく分からないまま

だけど

心は自分が存在する理由を

こんな自分でもこの世に

存在して良いという理由を

いつの間にか探していたのだ


ないものを探していた

過去の記憶さえあれば

すべて取り戻せるのか…




良い大学を出て

一流企業に就職していて

将来を約束されていたのか

それとも犯罪にでも手を染めて

追われていたのか

取り戻した記憶が自分にとって

都合のいいものかどうかなど

そんな保証など一切存在しない

思い出したくないから

思い出せないのかも知れない

今のほうが

幸せかも知れないような過去?

わからない


私には確かなものはなにもない


欠落ではない


なにもない


なにもなかったのだ


脳のたった一部の障害で

人生は恐ろしいほど簡単に

絶望の中へ裏返ってしまう

そんな不確かなものに支えられて

人は生きている?

まるでこの大地がひび割れることを

知らないかのように!

記憶とはなんだろう

それはもしかしたら

この私よりも私であるものなのか?

私自身が置き去りにされるほど

記憶は自分として刻まれ

それに人は疑問を抱かない…一切?



疑問は起こさない…

それはこの世で生きていく為の保証

疑わない…それを失うまで

私はそれをなくした…

私は自分自身をなくした!



カチリ…



口の中でリングが歯に当たる音が

耳の奥に響く

あ…あ…

また…発作が…