涼太くんと至近距離で対峙しているというのに、頬の紅潮は止められナイ…。



しなやかな指先とは違い、私を強引に引き寄せる腕の力は強靭なモノで。



フワリと鼻腔を掠める、ホワイトムスクの香りが一気に心臓の音を煩くさせるの…。




「ストレートな言葉でないと、気づかない性質で申し訳ないね…?」


冗談めいて話しているというのに、声色はいつもより低く感じる拓海。



「ハハ…、やはり東条社長には敵いません。

蘭・・・幸せになれよ」


「…うん、ありがとう…」



そんな私たちに笑う涼太くんにつられて、自然と笑みが零れていた…――






ようやくTS商事から脱した私と拓海は、そのままフェラーリへと乗り込んだ。



主君が運転手として帰還したせいか、真っ赤なフェラーリのエンジン音が軽快で。



地面を這うように走行するスポーツカーの乗り心地に、ホッと安堵してしまう…。




「どうして…、記憶はいつ…?」


走行中だと分かっていながらも、一番の疑念をぶつけたくて堪らなかった。




「ごめんな・・・

乱気流の事故のあとで、眠りから目覚めた時…。

蘭を認識出来ずに、酷い態度を取ってしまったのは事実だ…」


「ッ・・・」


自分で尋ねておきながら、“認識出来なかった”事実に苦しみを覚えてしまう。