話はその日の午前中にさかのぼる。

市長室には、大谷市長と流備の付き添いで来た、赤石刑事がいた。

市長はにこやかな笑みを浮かべている。

「よく来てくれた。この間はエメラルドから、大事なダイヤモンドを守ってくれて、ありがとう。赤石流備君」

「いえ…結局エメラルドは取り逃がしました。」

「なーに。それはまたチャンスもあるだろう。それよりも私は、君を高く評価しているのだよ。なにせ、今までにエメラルドに狙われて無事だった宝石は、一つもない。それが今回は、このとおりだからね。」

そういいながら、市長はダイヤを二人に見せた。

「このダイヤは、ドイツの天才細工師で、ドワーフの子供の異名をもつ、シュバイツ・ステラが作り出した。非常に価値の高いものでね。君にはお礼のしようがないくらいだよ」

そういうと市長は、ダイヤを金庫にしまい、今度は机の引き出しから、一枚のカードを取り出した。

「君は、これからもエメラルドを追いかけるのだろう?」

「当然です。奴を捕まえるのは、自分の義務だと思っていますので」

その言葉をきくと、市長の眼が怪しく光った。

「では、これからこのカードを使いたまえ。このカードを君に渡すのは、私の期待の現れでもある。君ならば、必ずエメラルドを捕まえてくれる。私は、そう確信しているのだよ。受け取ってくれたまえ」

「ありがとうございます」

そういって流備はカードを受け取った。

「これからの君のさらなる活躍を、私も陰ながら期待しているよ」

市長のその言葉をきくと、二人は市長室を後にした。


市長室の外で流備は一人ごちた。

「まったく…とんだタヌキだぜ。あの市長…」

その言葉を聞いて、赤石刑事が笑った。

「ははっ。まったくだな。中2のガキにあれだけプレッシャーかけるんだ。市長もまったく大人気ない」

「しかも笑ってだ。たかが一枚のカードがえらく重たく感じるよ」

そういって流備はため息をついた。

「まっそういうわけだ。エメラルドに関してはお前に任せる。俺は一切手伝わねーから。親は子供を谷に突き落とすものらしいしな。そうだお前に手紙が着てたぞ。ラブレターとは、お前もすみにおけないなー。」

そう言い残して、赤石刑事は市役所を後にした。