「まてコラー!!はぁ…はぁ…エメラルドー!!」

少年が走っている。ふわふわと風に流されるように飛んでいる、前方のバルーンを追いかけて。

よく見るとそのバルーンには、しっぽのように縄ばしごが垂れていて、そこには人が捕まっていた。

遠目に、長い髪が揺れるのが見える。女性のようだ。


「今日こそは逃がさねーぞー!!エメラルドー!!」

少年の言葉とはうらはらに、バルーンは徐々にスピードを上げながら遠ざかっていく。

その時、後ろから警官が一人、少年に追いついてきた。

「私に任せて下さい!ぼっちゃん!!」

そう言うが早いか、警官は胸から拳銃を取り出すと、バルーンに向けて狙いをさだめた。

「うわっ!ばか!!」

それを見た少年は慌てて警官をとめた。


ズドーン!!


大きな銃声が周辺に響き渡り、銃弾は空の彼方バルーンとはあらぬ方向へと飛んでいった。

「バカヤロウ!エメラルドに当たったらどうすんだ!!」

銃声並に大きな声で、少年は警官を怒鳴りつける。

「すいません…あっ!でもエメラルドが銃声に驚いて何か落としたみたいですよ?」

その言葉を聞いて、少年がバルーンの方向を見ると、バルーンはもう追跡が不可能な先を飛んでおり、そのまま路上を見るとたしかに何か箱のようなものが落ちている。

少年はこぶし大ほどの箱を拾って中を開けた。すると中には大きなダイヤモンドが入っていた。

「これは、さっき盗まれたダイヤじゃないか。…はぁ…どうやらダイヤは守りきれたようだ」

少年の顔に笑みが浮かんだ。

「エメラルド敗れたり…ふっふっふっ…ハァーハッハッハ!!」

少年は、このダイヤモンドを守ったのが警官の手柄だという事も忘れ、自分の力とエメラルドのマヌケっぷりに酔いしれ、高笑いをした。


その高笑いは、銃声よりも大きく、夜の街に響き渡った。