雑踏の中、交差点で足を止めて、少女はビルの壁面の大きな画面を睨みつけた。

 高校生くらいだろうか。
 痩せた華奢な体つきは、もっと幼い年齢にも見える。
 男の子みたいな短い髪の毛は少し色が薄くて、陽の光に透けている。

「あれ? なに立ち止まってるの」

 少し前を歩いていた彼氏らしき若者が、視界から消えた彼女を探して振り返ってきた。
 大学生くらいか、少女とは少し歳が離れているようだ。

「ああ、あれからもう、六年経つんだね」

 少女が見上げている画面では、アメリカで起きた同時多発テロの様子が、黙祷を捧げる人々の映像と共に流されていた。

「本当に今って平和なのかな」

「そうだな、何かが少し違ったら──平和なんてすぐに壊れちゃうものかもしれないね」

「やだよ」
 少女は彼氏の手を握った。

「平和って──何なのかなあ」

 そう言う少女の頭を、若者はもう片方の手でぽんぽんと叩いた。

「ねえ、もう少し髪伸ばしたら? 似合うと思うんだけどな。ま、俺は今のも好きだけどね」
「ん。考えとく」

「おっと。約束の時間に遅れる」
 時計を見て、若者が少女の手を引いた。