顔を擦り続ける風の塊は、皮膚が麻痺するような錯覚を与えてくる。

 抜けるような蒼穹が目に染みた。

 眼下には青い海が果てしなく広がり、白い波に重なってぽつんと、自分たちの機体の影が見える。
 海面に落ちたその影を追いかけ、跳ねながら進むイルカたちの群は小さく遠い。

素晴らしい眺めだ。

 最高の気分だった。

 ──こんな状況でさえなかったら。

『そこの機体、引き返しなさい』

 後方からはしつこく追いすがる機影が一つ。

『警告です、引き返しなさい』

 もう何度、同じ言葉を聞いただろう。
 外部拡声装置で繰り返した後、追跡してきた機体は、ついに痺れを切らした様子で銃身を向けてきた。

 ガガガガガ! という、鼓膜を掻き破るような轟音に脳髄が揺さぶられる。

「ちょっとォ、クウ!」
「うるさいウミ、黙ってろ!」

 操縦桿を握ったまま、クウは怒鳴った。