国連理事会の前日。ホテルのベッドの上。俺は仰向けに寝っ転がって、考えを巡らせる。
「ねージル」
あかりの声。とりあえずシカト。
「ジルってばー」
まだシカト。
「おーいジルー」
さらにシカト。
「へんじがない。ただのしかばねのようだ」
「死ぬかボケ」
むくりと起き上がりツッコむ。
「鉄板ネタ放り込むな。考えごとしてんだから、邪魔すんじゃねえよ」
再び寝っ転がり、頭の下で手を組んで枕代わりにする。
「ヘコまないでよ元軍人。あたしなんか人殺されるとこ初めて見ちゃったんだから。しかも生で」
「ヘコんでるわけじゃねえ。別に正義の味方にも、ロトの勇者にもなる気はねえしな。
けどな、この仕事やってりゃこれからもこういう場面に出くわすぞ。お前は民間人なんだ。悪いこと言わねえから実家帰れ」
「何? なんで今そんな話になんの? あたしだってそのうち慣れるし」
『慣れて欲しくねえんだよ』
そう喉まで出かかったが、ぎりぎりで言葉を飲み込んだ。今この話題を持ち出すと、間違いなく言い争いになりそうだ。自分を落ち着かせるためそのまま目を閉じると、
「何? 今度は妄想? キモっ」
「ちげえよ。国連ビルの周りを思い浮かべながら、どうやって王をパクるかシミュレートしてんだ。一種のイメージトレーニングだな」
「やっぱ妄想ぢゃん」
「ちげえっつってんだろが。それよりお前、国連ビル半径1.5マイル圏内の3Dモデルできたのか?」
「とっくに出来てるっての。マジちょろいから、こんなん」
「なら見せろ」
ベッドから起き上がり、ライティングデスクに置かれたあかりのVAIOを覗き込む。そこにはCGで描かれた、国連ビル周辺の地図が表示されていた。
「たった数日で、よくこんな手の込んだの作れたな」
「ちょーよゆー」
マップを見ながら考え込む。周りにもビルは数多くあるので、狙撃は比較的容易なようにも思えるが……
「ディルク。ちょっと見てくれ」
ベッドの上で銃のメンテをしていたディルクを呼ぶ。専門家の意見が一番だ。
「どう思う?」
ディルクはしばらくマップを見つめ、
「いくつか狙撃ポイントになりそうな場所はあるが、おそらく全て当局が押さえているだろう」
「まあ、そうだよな」
「事実上、犯行を予告しているようなものなのだから、当然警備レベルはマックスだ。本人の周りはエージェントがべったり張り付いているだろうし、警察車両やヘリも周囲を警戒している。
ビルの出入りはチェックされるだろうし、どこかのビルの屋上で狙撃姿勢をとっていたら、すぐに気付かれるだろうな」