電柱に張り付いたアブラゼミが鳴いていた。

梅雨明けの日差しは少々キツい。

あたしはスーツの上を小脇に抱え、ハンカチで顔をあおいだ。

「なんで子供に聞き込みしてたの?」

「この暗号の書き方が気になってな」

達郎は暗号が書かれた紙を指で弾いた。

「おかしな地名が使われてるだけで、文章自体はちゃんと読める」
この暗号は寓意法だ、と達郎は言った。

「寓意(ぐうい)法?」

「日本ミステリ界の大御所、江戸川乱歩は暗号というものを独自に6種類に分類した。寓意法はそのひとつだ」

わざと遠回しな表現をして、本来の文の意味を隠してしまう。

それが寓意法で、江戸川乱歩は日本古来の和歌なんかも寓意法による暗号だと記しているという。

「有栖川有栖が書いた
『英国庭園の謎』というミステリ小説には事件の謎が隠された暗号を、寓意法だと解釈する場面が出てくる」

ふーん?

「結局その暗号は寓意法で作られたものじゃなかったんだけどな」