スペイン。
地中海に面した、言わずと知れたヨーロッパの一国だ。
闘牛(とうぎゅう)やらフラメンコやらで有名なので、知らないやつはまずいないだろう。
今回のターゲット、アンディ・マルケスはコロンビアの麻薬(まやく)カルテルの元メンバーで、組織(そしき)から純度(じゅんど)100のコカイン5キロと、ついでにダイヤの原石(げんせき)1キロを持って逃げ出したらしい。
つまりだ。サツからも組織からも追われてて、逃げ場はないってことだ。
はっきり言ってあまり頭の良いやつじゃないだろう。やってることが短絡的(たんらくてき)すぎる。ドラッグってのは、世間(せけん)が思ってるほど簡単(かんたん)にさばけるもんじゃねえ。それなりのルートと手順(てじゅん)ってもんが必要(ひつよう)だ。ダイヤもしかり。しかも原石。そんなもんパクってきた辺りもそうだし、スペインに逃げたのだって、単にコロンビアと同じスペイン語が通じるからとかそんな理由(りゆう)だろう。どうやって入国(にゅうこく)できたのかは不明だが。
きっと(やっこ)さんはさばくにさばけない6キロのお荷物(にもつ)(かか)えて、どっかの安宿(やすやど)疑心暗鬼(ぎしんあんき)になりながら(ふる)えてることだろう。さばくにはその(すじ)業界(ぎょうかい)のお方に持ち込むしかないわけだが、調べた限りじゃやつはその手のコネは持っていない。
どっかテキトーな業界人(ぎょうかいじん)に持ち込みゃ、たちまちカルテルにタレこまれてパクられたあげく、南米(なんべい)のワニの(えさ)にでもされるのがオチだ。
ま、それはさておき。一口にスペインと言っても広い。まずはやつがどの辺りに(ひそ)んでいるのか、それを調べる必要があるわけだが……
多分(たぶん)バルセロナだよ」
地中海、バレンシア(おき)停泊(ていはく)していたバラクーダの中で、あかりはあっさり突き止めやがった。
「なんでそんなすぐわかんだよ」
「バルセロナのホテルでクレジットカード使ってるし。今日の午前中にもカードで買い物してるもん」
(すく)いようのないバカだ。現金を使えば足もつきにくいのに。
「ATMで現金も引き出してるよ。監視(かんし)カメラにちょーバッチリ顔(うつ)ってるし。マジウケるんですけど」
(わら)いながらあかりはラップトップPCをこちらに向ける。ちなみに真っ赤なVAIOだ。船には衛星回線(えいせいかいせん)接続(せつぞく)されたデルのデスクトップも()え付けてあるのだが、あかりは自前(じまえ)のラップトップを無線(むせん)LANで(つな)いで使っている。デスクトップは滅多(めった)に使わない。
ディスプレイを(のぞ)き込んで確認(かくにん)する。間違(まちが)いない、マルケスだ。ICPOで公開されている顔と同じである。