――結局(けっきょく)――
マルケスはそのままコーストガードに拘束(こうそく)され、スペイン警察(けいさつ)逮捕(たいほ)された。ちなみに漁船のオーナーもやはりまともな漁師(りょうし)などではなく、密航専門(みっこうせんもん)(はこ)()だった。当然(とうぜん)のことながら、マルケス共々(ともども)逮捕された。
俺達はというと、面倒(めんどう)ごとはゴメンなので、(あわ)ててその場からトンズラこいた。
マルケスが自分からコーストガードに飛び込んでいったようなものなので、当然賞金はパー。俺達は金と時間をかけて、やつの自首(じしゅ)手助(てだす)けをしてやったようなもんだ。
などと地中海(ちちゅうかい)日差(ひざ)しを()びながら、いつもの後部デッキで思いを(まぐ)らせていると、
「ジル。メシだぞ」
ディルクが()びに来た。
「ああ……今行く……」
俺はのっそりと立ち上がる。なんだか全身(ぜんしん)(おも)い。心なしか、ディルクも少しやつれたように見える。
キャビンに下りると、あかりはすでにテーブルについていた。両腕(りょううで)の上に(あご)を乗せ、全力でだらけた体勢(たいせい)だ。そしてテーブルの上には、巨大なピザ『のようなもの』が()かれていた。
「……何だこれ?」
「ピザだ」
ソファに腰掛(こしか)けながら聞いた俺に、やはり腰掛けながらディルクが答える。
「ピザって……何もトッピングがないように見えるんだが……」
「あるじゃないか。チーズが」
「チーズだけじゃねえか!」
綺麗(きれい)黄色(きいろ)円盤(えんばん)だった。
「もぉ無理(むり)ー!! ただの小麦粉(こむぎこ)とチーズの(かたまり)ぢゃんこれ! もっとまともな物が食べたいー!」
ついにあかりが発狂(はっきょう)した。
贅沢(ぜいたく)言うな。まだ食材(しょくざい)が残っていただけラッキーと思え」
「ってことは、おい、まさか……」
(いや)予感(よかん)がして、俺は(たず)ねる。
「ああ。これが最後の食料(しょくりょう)だ」
「のおおおぉぉぉぉぉ!!!」
今度は俺が発狂した。
「今のうちに食っておいた方が良いぞ。次はいつ食事にありつけるかわからん」
()(ふた)もないことをクールに言いおった、この男。
あかりは目の(はば)(なみだ)を流しながら、両手に1ピースずつピザ『もどき』をほおばった。
仕方(しかた)なく俺もピザに手を()ばす。
「ところで、こんな時に何なんだが」
1ピース目を飲み込んでから、おもむろにディルクが話し出す。
「なんだよ? まだなんかあんのか?」
ピザがしょっぱく感じるのは、きっと(しお)()いているからだ。(だん)じて涙のせいなんかじゃないぞ。ぐすっ。男は涙を見せないもんだ。そうだろママ?