8月の海は(おだ)やかだ。一年で最も穏やかになると言っても過言(かごん)ではないだろう。
()せては返す優しい波。一面コバルトブルーの空。そして、きらめく太陽……
いや、きらめくと言うよりは()けつくと言うか、むしろさえぎる物が何も無いせいですでにこんがりきつね色、てかそれ通り()して真っ赤(まっか)にヤケドしかけて――
(あつ)い!! てか(あつ)い!!」
がばっと音がなりそうな勢いで、(おれ)後部(こうぶ)デッキのソファベッドから起き上がった。
そう『後部デッキ』だ。
ここは俺のクルーザー、バラクーダ号の上。しかも場所は、南大西洋(みなみたいせいよう)のド真ん中だ。
暑いに決まっている。
そんな場所でうっかりうたた寝なんぞしちまったせいで、あやうく死にかけた。
そりゃ、砂漠(さばく)の真ん中で水も飲まずに延々(えんえん)クラッカーを食べ続ける夢も見るってもんだ。
とりあえず足元のクーラーボックスからミネラルウォーターを取り出し、一気に飲み干す。ちょうど飲み終わった時、
「ジル。メシだぞ」
相棒(あいぼう)のディルクが顔を(のぞ)かせた。
「わかった。今行く」
俺はのっそりと身を起こす。
ディルクは黒髪にブラウンの瞳、細身のドイツ人で元GSG-9の隊員だった。GSG-9ってのはいわずと知れたドイツ警察の特殊部隊(とくしゅぶたい)で、ディルクはそこでスナイパーをやってたそうだ。
腕前は折り紙つき。俺の仕事にはかかせないパートナーだ。
俺の仕事――賞金稼(しょうきんかせ)ぎ、バウンティハンター、カウボーイ。色々な呼ばれ方をするが、要するに懸賞金(けんしょうきん)のかかってる悪党を(つか)まえて警察に引き渡し、賞金を稼ぐ。そういう商売(しょうばい)だ。