家に帰ると
「おかえりなさい」って
キッチンで
ぼくを振り返ったのは
蕾ではなく美紗だった




予想外のことに
しばらくポカンと
キッチンの入り口に
立ち尽くす




「楓?」



美紗が怪訝な顔をして
やっと我に帰った



「美紗……!
なんで美紗がここに……」



美紗は蕾のエプロンで
濡れた手を拭きながら



「急に来てごめんなさい…
でも、私、どうしても
楓に会って相談したい事が」



「相談?
相談なら電話でもメールでも
わざわざ電車代かけて
ここまで来るほどの……」



「来るほどの相談だよ
どうしても会いたかった」



すがるような目をした
美紗から顔を逸らし


「………蕾は?」



「蕾ちゃんはお部屋で勉強
受験生だもの
家事なんてやらせたら
かわいそうよ

そう、私、蕾ちゃんの事も
心配で……………」


ぼくは眉を寄せ
「蕾が心配?」と
聞き返した



美紗はうなずき


「こんなこと言っちゃ
あれだけど………
ここ田舎じゃない?
高校も2つしかないし

これから先
大学受験とか不利にならない?

蕾ちゃんのためにも
高校はよそを受けさせたら?

うちだったら
楓の使ってた部屋もあるし
蕾ちゃん大歓迎よ?」