「家出って……まじで?」
マナミの頭が小さく縦に揺れる。
うなずいたのかどうかもハッキリ分からないくらい、小さく。
「……でも、きっとすぐに帰ってくるだろ」
そう言いかけたけれど、俺は言葉を飲み込んだ。
何のフォローにもならない言葉なら、かけない方がいくらかマシだ。
と思って黙っていると、
「まあ、すぐ戻ってくるでしょ」
母さんのあっけらかんとした声がした。
「武史は昔から、すぐにどこか行っちゃうタイプだったしね。そんなに心配しなくて大丈夫よ」
その言葉に父さんが、うんうんとうなずく。
まなみの返事はなかったけれど、彼女は少しだけ安心したような表情を見せた。
……俺じゃ、こうはいかないよな。
母さんも父さんもエミも、少し楽観的すぎるけど、人の気持ちを軽くするのがすごくうまいと思う。
けど、みんな忘れたのか?
兄貴の放浪癖がそんじょそこらのレベルじゃないってことを。
このことを俺が打ち明けたとき、耳をかたむけるトオルの顔はニヤニヤとゆるんでいた。
「いよいよ急接近のチャンスじゃん。“彼の弟”のポジションから抜けるなら、今じゃん」
「いや、お前……その発想はモラル的にどうかと思うぞ」
「関係ないって!」
妙に興奮気味のトオル。
ていうか、なんで俺が“弟”ポジションから抜ける必要があるんだ?
「いやー。グラビアアイドルがとうとう雑誌から抜け出して、リアルな存在になったって感じだな」
と、トオルはなぜか嬉しそう。
そんなやりとりをする俺らの横で、プッと小さな笑い声が聞こえた。
見ると、同じクラスの柿本詩織だった。