「いっみかー!おっはよっ!!」

「あぁ…うん」


いつも通りにしなきゃって思って、反射的に口角を上げる。
ちょっと…わざとらしかったかも。

俊介は何処も変わった様子なんてなく、今日も笑いながら旗を振ってくる。

それじゃ…駄目だって俊介。


「あの、さ。俊介…」

「んー?どした?」

「俊介も…いるんでしょ?好きな子とか」

「え…」


途端に、虚を突かれたように固まる顔。
ちょっと、頬が赤いような。
わかりやすい…恋してるって顔。


思わず綻んじゃうのに…苦い。



「水臭いなぁ、いるんなら教えてくれたって良いじゃない」

「…えっ?あの…諱花…」
「すみません。諱花先輩、いますか」


どこか戸惑ったような表情を浮かべる俊介の声を、教室の出入口に立つ声変わりしたばっかりくらいのよくとおる声が遮る。

回りの好奇に満ちた目線を分けるように目線をやると、廊下からこちらを伺う長谷部と目が合った。


「いっちゃん…!
…あ、俊介は来ないで」


昨日の事だとしたら、俊介には知られたくない。

なんか後ろ暗い気分で、俊介の顔が見られなかったうえ、その一言を言うのに変に緊張して少し強めに言ってしまった。


長谷部が変な事を言う前に、私は彼を伴って教室を出た。