目を覚ますと見慣れた天井が見えた。
夢なのかと思ったが、かなり鮮明で夢にしては残っているモノが多すぎる気がした。
父親を失った過去の記憶、深い事から浅い事までの思考、触れたり感じたりした感覚、嬉しくもあり悲しくもあった想い、揺れ動く彼女の表情、見たことがない風景、行ったことのない学校、転校したことのない状況、匂ったことのない香り、聞き覚えのない人々の声など…。


趣味である釣りに行くのを止め、生まれ育ったこの町を散歩する事にした。
夢で見た風景を探しに。
有るのか無いのか分からなくてもいい。
久しぶりの休みなのに普段と変わらない退屈な時間を過ごすのは勿体無い。
同じ時間を過ごすのなら新鮮な気持ちで知り尽くしているはずの町を歩き、新しい発見を楽しんだ方が有意義に思う。
そう思えるようになったのは寝ている時に体験した不思議な物語のお蔭だ。