「さようなら~!元気でね~!」
慣れ親しんだこの町の道を走り、中型トラックで見知らぬ町へと移動する。
窓から涙を流す僕に向かって大きく手を振る見慣れた顔ぶれ。
永久(とわ)の別れでもないのに大粒の涙が頬をつたる。
どんなに離れていても大切に思う気持ちはみんな一緒だと感じた。


「初めまして。海藤 大和(かいどう やまと)です。よろしくお願いします。」
小学生や中学生の時に何度も経験した転校。
高校生になった今でもこうして経験している。
ただ、もう転校する事はないだろう。


「お父さん!お父さんっ!」
ある朝、母の慌てる声で目が覚めた。
視界が悪い目をこすり、母のもとへ歩み寄る。
小さくなった母の肩に手を置き、父の布団へ目をやった。
すると、青白い顔をした父が微笑みかけているような表情で目をつむっていた。
起きる気配がない事は一目で分かったが、母はそれを受け入れられず、ただ泣き崩れるしかなかった。
悲しみに暮れる間もなく、お通夜の用意が着々と進む。
中学生の僕には業者や親戚などが忙しそうに動き回っているのを見ている事しかできなかった。