「本当に行くの?無理してない?」

白い軽自動車のハンドルを巧みに操りながら静香が心配そうにつぶやいた。

「私だったら大丈夫。いつまでも背中向けてちゃ前に進めないわ・・・私が発見された場所、本当はもっと早くに行くつもりだったんだけど、なんだか怖くて」

「もう怖くないの?」

「怖いよ・・・夢に出てきた鬼が出てきそう。でも行かなくちゃ・・・私の人生は15年前のあの日、病院のベッドの上から始まったのよ。その時間を戻さなくちゃ」

まだ何かいいたそうな表情を見せた静香だが碧の横顔に硬い決意を感じ取って言葉を飲み込んだ。

新宮市内の国道42号線から168号線に入り数十分、軽自動車は道路わきの駐車スペースに停止した。

「わあ、良い気持ち。そういえばこんなに良い天気になったのはじめてねえ」

結局5日間入院し、その後更に3日間会社を休んだので暦はすでに7月である。

しかし梅雨の間、じめじめとした割には雨が降らずその反動で7月にはいってからはずっと雨であった。

「此処だと思うんだけど・・・」

肇から手渡された手書きの地図を見つめる。

最初肇と夏美は碧が此処にやってくる事に大反対であった。
しかし碧の強い熱意と和哉の後押しもあって昨夜このメモを手渡してくえたのである。

「ここの草むらに倒れていたんだって。ガードレールの向こう側」

複雑な面持ちで指差す。静香も黙ってその方向を凝視した。