『金沢もう帰るのか?たまには晩飯でも付き合えよ。今日お袋同窓会でさ、碧も友達と食事してくるとかで家帰っても食べる物無いんだ』

『悪いな沖田、俺ちょっと人と会う約束あるんだ…ホントにごめん』

仕方ないと肩をすくめる和哉を尻目に急いで書類を引き出しに入れた雅彦は、上着を羽織るのももどかしそうに職員室の外に出た。

『金沢先生もうお帰りですか?』

出口に向かう雅彦に音楽教師の青沼小夜子が声をかける。
自他共に認める美人だが、それを鼻にかけたような所が目について雅彦は苦手にしていた。

『ええ、ちょっと人に会う約束があるんでお先に失礼します』

『もしかしてデートとか?金沢先生を一人占めする幸運な女性はどんな方なのか興味あるわ』

『そんなんじゃないですよ、本当に用事なんです』

きつい香水にたじろぎながら雅彦は小夜子の脇をすり抜けようとした。

『そんなに急がなくても良いでしょ?金沢先生のクラスの片岡君の事で少し相談があるんですけど』

腕を組む様に絡みついた小夜子は強引に雅彦を音楽室へと引っ張り込んだ。

(弱ったなあ…時間過ぎちゃうよ)

腕時計を見ながら渋々中に入る雅彦に小夜子は椅子を差し出し微笑みを浮かべながら前に座った。