第1章
 ~人の心は
   何処へ流るる…~

第1節
 ~藤間ユイと
   新バビロニア帝国~



 深夜。
 中学生である「藤間 ユイ」は部活の疲れもあってか、深い眠りの中にいました。
 
 都心から20Kmといった、優良高層マンション。刑事である父、「藤間 裕」の給与に加え、母、「藤間 麻衣」もパートタイムの精神科の勤務医として家計を支えているのでした。

 金銭的にも、愛情も、誰もが羨む理想的な家族です。

 
 ………

 しかし…。
 「藤間 ユイ」の本当の父親が、ユイを激しく虐待した末、精神衰弱を原因に
焼身自殺した事件は、明かせない事実として裕と麻衣の中に封印されていたのです。
 しかも実際には“焼身自殺”ですらなく…ユイ当人が“焼き殺した”のですから、誰がこの少女に事実を言えるというのでしょう。

 と、不意にユイのショート・カットの髪が初夏の夜風で捲れ上がりました。
 少し色素の薄い天然の亜麻色の髪。微笑ましい、少女の飾り気の無い寝顔です。

 けれども、その下の額には禍々しい虐待の傷跡が逃れられない鉄の鎖のように一筋、残ってるのでした。
 
 これがそう、虐待の証拠なのです。
 3歳の頃、その父親によって床に打ち付けられた時に付いた切り傷です。また額だけでなく、背中や太股にはタバコを押し付けられた、火傷の跡もありました。