雨は降り続いていました。

 6月の26日。「まだ梅雨が明けていない」と言ってしまえば、それまでしょう。

 しかしその雨は…
 彼の心が…
 つまり彼の竜が、嘆き悲しみ、降らしているように思えてなりません。


 「…『ドラグーン・オブ・ザ・ライトニング』」
 少年はまた、音の響きを確かめるように唇を動かしました。


 「そう、キミは最強のドラグーン《竜使い》だ」


 「…何故?」


 「お前を変身させている、その指輪は『雷王の指輪』というんだ」


 「…ふぅん。で?」
 少年は指輪を眺めました。それはまるで彼のために創られたかのように指にフィットしていましたが、そのことに疑問は生まれませんでした。ハンガリーで創られたというその指輪が、しかし自分の指とサイズとピタリと合う事は、どうしてか、必然に思えたのです。

 「雷王とはゼウスだ。分かるか、ゼウス。オリンポス十二神の長、ゼウスだぞ」


 「そんなに強いんだ…」


 「他に『12のドラグーン』が現存するが、強弱で言えば、まるで話にならん。 能力者の監視制度を取り決めた“国連裏憲章”にも『雷王の指輪』の使用を禁じる一文がある程だ」


「…ふぅん、そんなに」
 そう言うと少年は目を閉じて、ピアノを弾くかのように指を動かします。
 “力試し”でした。人が声という手段で空気を震わすように、彼は今、『雷竜』という手段を通して電子を制御していました。
 少年の指がDマイナーのフォルテッシモを成すに合わせ、光の一閃が大気を引き裂きました。

 ギビギビギ…!
 ズドーンッ!!!