『…サク』
先輩の低くて、落ち着くような声に引き寄せられて、差し出された手をとった。
バスタオル一枚だけの状態。
だけど下着姿よりは恥ずかしくないはず、なんて思って選んでしまった。
でも今思えば、バスタオルの下に何も着てないってことは、このタオルがとれてしまったら全てさらけ出されてしまうってことじゃん。
ある意味一番、危険なのでは?
そう思っても手をとってしまった以上、どうしようもなくて、あとはなるがままに任せるしかない。
引き寄せるられる身体。
先輩の胸に収められるように抱きしめられて、その密着度にもの凄いはやさで鼓動をうつ音が先輩にも伝わってしまうんじゃないかって恥ずかしくてたまらない。
それでも行為はどんどん進んでいって、先輩が触ると反応する身体が自分じゃないみたいでおかしな感じ。
ゆっくりと先輩のベッドに押し倒されて、沈む身体を心地よいとおもってしまった。
このまま行為が進んでいったら、どんなに心地よいのか分からないとさえ思った。
その分、手慣れた先輩の動きに悲しくもあり、淋しくもあった。
何人の女の人に同じように触ったのか、誰とこんなことをしていたのか、先輩の過去に嫉妬してる。
『…っ奏』
…っ。
カナ?
そんな苦しそうな声で、わたしに触れながら、誰の名前を呼んでいるの?
“カナ”
わかってる。
あの写真の女の人。
マグカップの女の人。
先輩のモノクロの部屋に色をもちこんだ人。
まだ…好きなんですか?
わたしを抱きながら、想うのは彼女なんですか?
あまりの絶望に、悲しさに、心地よいと思った先輩の行為でさえ、何も感じなくなった。
『…奏』
呼ばないで!
※諸事情によりカナの字を変更しています。徐々にではありますが全て変更していきますので途中で前の字が出てきても気にしないでください。