――


幾年前のこと…。


彼がまだ、名も無い一匹の、みすぼらしい白狐だった頃…。




厳しい冬の寒さの日のことだ。

飢えに苦しみ、彼は人里に降り立った。
しかし、彼は倒れた。
終にその命が絶えようとしたとき、






彼は救われた。














彼の前に現れたのは、一人の人間の少女だった。













年はおよそ六つほど。

降る雪と同じ、白い白い肌。
それに映える、黒い黒い髪。
幼子にしては、何とも奇怪で、何とも麗しかった。



その小さな腕には、籠一杯の魚を持っていた。
だが手は、霜焼けで赤く腫れ上がっていた。

この寒さの中、たった一人で、河で魚を取っていたのだろう。


この若さで、彼女はもう働いている。
貴族の屋敷の下働きにと、飼われているのだ。






愛も温かさも、何もかもを失ったような瞳。
その瞳は、虚ろだった。