海隊は海岸をひたすら走っていた。

この1ヶ月県内を走りっぱなしだが、今日は宇賀本郷から角島海岸を目指して走り続けていた。

根本ユキは他のメンバーよりも飛び抜けて脚力があるため、たった1人、既に萩までたどりついていた。

午後5時頃彼女の携帯電話に着信があったので出てみた。

電話をかけてきたのは海隊の隊長である有野副調査役、通称アリノズだった。

「根本さん、今どこを走っている。こっちはもうすぐ角島海岸に到着するよ。今日はバーべキューをするから早く集合したまえ。」

「今、萩市内です。バーベキューがあることをすっかり忘れていました。私はバーベキューが何よりも好きだということをアリノズさんもよくご存知でしょう。すぐに走っていきます。」

「萩だって、それは間に合わないんじゃないの。まぁこちらは先に肉を焼いているが怪我のないようにゆっくりおいで。」

「はい。承知しました。私の肉も残していただければ幸甚です。」

電話を切ったあと彼女は心の中で舌打ちした。

今日がバーベキューの日だということをすっかり忘れていたのである。

萩から角島までは車で1時間程である。

走っても肉が残っているか確証を持てない。

彼女はしばらく神妙な顔をしていたが、意を決した。

「BRを使おう。背に腹は代えられない。焼肉を食べたい。ああ、焼肉よ、我が血となれ肉となれ。もはや、よだれがこぼれそう。確か昔角島付近でBALを使ったことがあったような、なかったような・・・」

前回BALを使用した場所に戻れるという特殊能力を持ったシステム資源がBRである。

彼女は普段自分の足に自信があるため、滅多なことではシステム資源を使おうとしなかったが今日は訳が違ったのである。

どうしてもバーベキューに参加したかったのである。