カンカンカンって、アパートの階段を駆け上がってくる足音が聞こえてきたのは、それから数日後の朝のことだった。

その足音は、あたしの部屋の前でピタリと止まった。

続いて家のチャイムが鳴り、更にドアをどんどん叩く音。


「美夕!」


その声に慌てて玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは険しい顔をしたキラだった。


キラはあたしが少しだけ開けたドアに手をかけると、あっという間にそれを全開にして、

「どうして美夕はそうなのよ!」

あたしの胸を両手でどんと突きながら玄関に入り込んできた。


「美夕はいつだってそう! 自分の気持ちを押し殺して、1人で悲劇のヒロインぶって……。そういうところがイライラするっていうのよ、5年経ってもちっとも変わってないんだから!」

その勢いにたじろいで2歩、3歩と後退するあたし。

キラの背後で、開け放たれていたドアがゆっくりと閉まった。


ドアの隙間から陽が差し込んでいた玄関が再び暗くなり、キラの顔が陰る。

だけど顔が見えなくても、キラが怒っているのは明白だった。


「……昨日、お店に来た先輩から聞いたのよ。先輩と結婚しないってどういうこと?」