翌朝、あたしは急に体が重くなった気がして目を覚ました。

そして、それと同時に聞こえてきたのは、ドアポストに鍵が落とされる音。


上半身を起こしてソファに目をやると、そこにはもう先輩の姿はなかった。


壁にはハンガーが残されているだけ。

かけてあったはずの先輩の服も、ソファの横に置いておいたカバンも、無くなってしまっていた。


部屋の外からは、カン、カン、カンっていう、アパートの鉄製の階段を下りる靴音が聞こえてくる。


……今ならまだ間に合うかも。

そう思って慌てて布団から出ようとした時、あたしの手に、さっき感じた「重み」の正体が触れた。


それは、昨晩先輩が使っていた毛布。

先輩は、部屋を出る前に、あたしに毛布を掛けてくれたんだ。

あたしを起こさないように、そっと──。


「もう……。最後の最後まで、優しいんだから……」

あたしは先輩を追いかけるのを諦めると、毛布を抱き寄せ、誰にも聞こえないくらい小さな声で「ありがとう、先輩」って呟いた。