「なあ、アンタもそう思うだろ?」

マイケルは相手が当然「そう思う」と答えるだろうという口調で尋ねた。

「……そうは思わないね」

ジョンは仏頂面で「断固として同意しかねる」といった様子で答えた。

「バカな!あんたどうかしてるぜ!」

マイケルは大げさに両手の掌を天に向け、お手上げだというジェスチャーをとった。

「どうかしているのはキミだよ」

ジョンの言葉にマイケルはむっとした表情で、さらに大げさな動きで海を指し示した。

「ほら、見ろよ!この広い海!大きな太陽!真っ赤に染まった空!わからないかなあ!?」

マイケルの言葉につられたわけではないが、ジョンの目にもその景色はいやおうなしに入って来ていた。

穏やかな波間に幾人かのサーファーがのんびりと漂い、一様にその姿を夕焼けの色に染められていた。

遥か遠い水平線には、真っ赤な太陽がおよそ半分だけその姿を見せていた。

もとより海から現れて、帰るのが当たり前であるように、ゆっくりとその身を海に沈めていく。

「こんなに雄大で、美しく、自由なものを見ればそうありたいと願うにきまってるじゃないか!」

マイケルはさらにヒートアップしてジョンに詰め寄る。

「落ち着きなさい、おとなしくして!」

「社会というチェーンに縛られ!法というスピアに貫かれ!服というプリズンに閉じ込められたボクが今!フリーダムになっているんだよ!海のように広く、空のように遠く、波のように激しく!ああ、素晴らしいよ!そんなフリーダムなボクを真っ赤に染め上げてくれるあの夕日も、ボクの肌を涼やかに撫ぜる潮風も、皆の熱い視線も、全てがボクを包んでいるんだよ!」

「落ち着けと言っているだろう、この露出狂が!」

ジョンの怒声に遠巻きに見ていたギャラリーが身をすくめ、応援に駆けつけた警官がその群集をすり抜けて走り寄る。

「イヤだ!ボクはフリーダムなんだ!ああ、真っ暗だ!照らしてくれよ!ボクをもっと明るく赤くしてくれよ!」

手にした刃物を叩き落され羽交い絞めにされたマイケルは、もう日が沈んだ水平線に向かって叫びながらズルズルと本当のプリズン行きの車に乗せられるのだった。