柄杓で水をすくい、土の庭にぱしゃっとまく。


中央に立ち、何度も繰り返す私の目の前に、影がぬうっと現れた。


慌てて手を納め、顔を上げる。


そこに立っていたのは鬼虎で、私はしまった、と思いつつ額の汗を拭い、乱れていた髪を手で整えた。



鬼虎は煤色の小袖と袴を着ていて、腰には本差と脇差を差している。



「――――」



私の口が勝手に動く、何かを言ったらしいが、聞きとれなかった、自分の筈なのに。


でも、その言葉に。



鬼虎が柔らかに微笑んだのはわかった。



ああ、この人がこんな風に微笑むなんて。



思わずこちらも頬が緩んでしまう。



きっとこれは夢なんだろうな、そういう思いが頭の中に浮かんだとき。



鬼虎の唇が動いたけれど、その声はこちらに届かず。



私は、すうっと瞳を閉じた。