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【短】罪は、蜜より甘く

罪は、蜜より甘く
~香夜歌~





 夜がすっかり深くなった――。


 晩春に差し掛かったほのかに温かい夜気と、蟋蟀(こおろぎ)の美しい調べが、わずかに開け放たれた障子越しに忍び込む。

 左大臣の末女である香夜歌(かやか)は、沈痛な表情を浮かべながら、文机に置いてある日記に向かった。

 筆を滑らせて綴るのは、言葉にしてはいけない想い。

 口に出して、誰かに言ってしまいたい台詞をそのまま綴る。


 

 『叶わぬ恋があるなんて…今まで考えたこともなかった。分かってはいるの。この想い自体がいけないことなのだとも。でも』




 躊躇うように一度筆を止めてから、深い息を吐き――再び筆を滑らせ始める。





 『でも……どうしようもなく好きなの。…止められないの。彼がこの想いを知ったら困るだけなんだって事も、彼がわたしの事をまだ子供としか思っていない事も、分かってはいるの。けど、胸の中で想うだけなら、いいよね…?』




 これ以上書く気にはどうしてもなれなく、香夜歌はそっと筆を文机の上に置いた。





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