エレベーターのドアが開き、あたしは5階へと降りた。

幾つかある教室のひとつをのぞき込む。

教室の壇上で、黒スーツの男性が英語の教科書を手にしていた。

男性の名はあたしの10才上の従兄、月見達郎。

あたしは達郎兄ちゃんと呼んでいる。

「いいかみんな、文章問題は重要だぞ」

達郎兄ちゃんは教室を埋めた生徒たちに呼び掛けた。

達郎兄ちゃんは某大学の2年生だが、高校を卒業してから4年間の海外留学をしていたので、年齢は25才。

本場仕込みの英語を活かして、この塾で講師のアルバイトをしている。

噂だとポイントを押さえたわかりやすい授業だということで、けっこう人気があるらしい。

「前にも言ったように文章問題は配点が高い」

「ハイ!」

生徒たちの声が教室中に響き渡る。

「だから答案用紙は空欄で出すなよ」

「ハイ!」

「わからなかったらとりあえず【have】って書いとけ」

「ハイ!」

ポイント、ねぇ…。