スヤスヤと眠る紫衣から俺は体を離した。


これ以上側にいることは出来ない。


紫衣宛に残すため書いた文章を眠る紫衣の横に置き、羽織りをかけてから俺はその場を離れた。


固執し続けた思いから目が覚めたような気がする。


朝を迎えたときのように清々しい気分だ。


「殿、お待ちしておりました。」


俺の前に跪く男。


この男も俺を待っていてくれたのだ。


「左近か…。」


「やっとお側に仕えさせて頂けるのですね。」


俺に深く頭を下げながらも嫌みを口にする食えない男。


「左近、すまなかった」


「おや?殿が素直だと調子が狂いますな。」


ニヤリと不適な笑みを浮かべながら零す左近の言葉に俺は大きく溜息をついた。


「もうよい。行くぞ左近。」


「どちらへ?」




「あの橋の向こうへ…」