大気を切り裂く赤いバイクは時速を百八十キロまで引き上げた。聴覚のすべては連続した排気音と空気が抵抗する音に支配され、視覚はまばらに走る車の動きを注視した。

(俺たちはどこで間違ったんだろうな?)

 風の抵抗から逃れるために潜り込むような伏せた姿勢を保ちながら、俺は遠い記憶を思い返していた……。


 十五年前――亜紀と付き合いだしたのはこの頃だ。眩しい夏の日差しを浴びて、二十歳の俺の目の前にその天使は現れた。

「すいませーん」

 バイト先のバイク屋でキャブレターの洗浄をしていた俺は、その透き通った声に顔を上げた。