上京の四条河原町の居酒屋に、中間(ちゅうげん)達の溜まり場がある。

 そこは口入れ屋から、色々な大名達に雇われた者達やこれからどこかに入り込もうとしている連中の情報交換の場でもある。
 丸やら角やらの文様が入った長小袖の裾を後ろにたくし上げ、脇差しを色とりどりの帯に差した中間姿がわいわいと酒を飲みながらやっている。

 店の中は、藁の仕切で飲み台が分けられているが、話は筒抜けだ。彼らの他に京雀と言われる、噂好きの町人も情報を求めて集まってくる。

 一番角の二人用の小さな呑み台に乞食の様な侍が座った。髪はぼさぼさで顔は垢で真っ黒だ。来ている小袖はもとは上物のようだが、今はぼろぼろで埃にまみれている。

 店の者が前に来てじろじろ見て、
「お侍さん、お貰いなら裏に回ってくれなはれ」
 侍はびくっとして前髪に隠れた目を向けた。顔の輪郭はまだ幼く整っている様だ。刃の白さが顔の黒さでとりわけ引き立つ。
「・・・金ならある・・・飯を呉れないか」
 銀を二つ台に出す。

 出された目干しに白米をがつがつと食べ出した。咽せて茶を流し込む。