朝の陽光に静音ははっと起きた!

 見ると修理は床には居ない!

 不覚!

 障子を開けると籐の籠に麻の上物の小袖と短袴が入っている。着ると静音の身体にぴたりだった。

 押っ取り刀で庄左右衛門の部屋に駆けた!
 この屋の主の部屋は、床の間に鎧櫃に乗せた南蛮兜に赤糸威の見事な鎧、その横には種子島三丁、太刀拵えの大小が置いてある。すわという時はこの場で出陣するためだ。
 上座に庄左右衛門が座り、その前に修理がいる。なにやら書状を前に話している。

 静音は修理を見て安堵し、部屋の前の廊下に正座した。
「おお!静音殿!うむ、その衣服、丁度良かったようじゃな」
「数々のおもてなし、本当に有り難う御座います。して昨夜の約束、果たしとう御座います。なにとぞお庭をお貸し下さい!」

 修理は横に少し動いて、この屋の主に背を向けぬ様にして静音を見た。その目は優しく愛しき人を見る。
 そのような目で俺を見ても容赦はせぬ!
 静音は怒りの目で睨み返した。

 その端座して睨み居る姿は興福寺の阿修羅像が生身の姿で降魔(ごうま)の剣を振りおろさんとする如く。